父とともに

失語症状の父とともに一日過ごす。
父の発する言葉は不完全。何かを喋ろうとすると、「『はおち』が『でわち』で…(モゴモゴ)」みたいになってしまう。
夕べから、なにやらとても気にかかるものがあるらしかったので、雨の中二人で軽トラに乗って出かけてみた。
目的地はどうやら裏山だった。間伐を行っている途中らしく、ヒノキ林を指さしてはしきりに「『はおち』が『でわち』で…(モゴモゴ)」を繰り返すことになる。
結局、ヒノキ林が気になっているということは分かったのだが、そこで一体何をしたいのか、さっぱり要領を得ない。雨の中であるため、軽トラの車内では、要領を得ない二人が通じ合えない言葉をぶつけ合う。筆談も思うようにならないようすだし、狭い車内が何とも言えぬいや〜な雰囲気になってしまった。
ずっと父に寄り添っていたわけではないが、さすがに気を遣う。ちょっと目を離すと車を運転しようとするし、草刈り機のエンジンをかけようとしたり、なにやらマシンのエンジンをかけようとしたり、姿を消したりする。何をしたいのかをまったく教えてくれないし、伝えられないし、こちらも理解できなかった。
夕方以降はおとなしく今でくつろいでいた。なにか音がないと寂しいのか、それとも、家族のものともおしゃべりするのが辛いのか、真っ先に率先してテレビの電源を入れる。プロ野球交流戦を見たり、エンタの神様を見たりしている。たまに笑い声を立てたりするし、終止にこやかに画面を見ている。ある程度は理解できるのだろう。