父に鉄槌

迂闊だった。机の上に、軽自動車・トラクター・コンバインなどの鍵束を置きっぱなしにして出かけたところ、高次脳に機能障害を持ち、医者からは「運転などとんでもない」と烙印を押されている父がこれを勝手に持ち出し、あろう事か軽トラックを運転していた。昼休みに帰宅したときに軽トラックが移動しているのを発見、もしやと思い、問いただしたところ「なぜ運転してはいけないのか」といったような意味合いの言葉を発しながらかんしゃくを起こしてしまった。
だいたいかんしゃくを起こす父の行動パターンとしては、自分でも「どうやらあまり良いことではない」と認識しつつも、やっぱりうすうす本人も気づいていたとおり周囲の人間から見とがめられたときにわがままなかんしゃくでその場を乗り切ろうとするのだ。スーパーやデパートなどで、オモチャを買ってもらえない子が床に寝っ転がって駄々をこねるのとさして変わらない理屈も何もない実力行使だ。すまんが赤ん坊より始末の悪い父よ、アナタの思うとおりには絶対にならないのである。観念しろ。
結局鍵束を握りしめて離さない父の手を、力ずくで開き、奪い取った。父は涙目で訴え「死ぬ、死ぬ」と物騒な台詞を吐き出す始末。とても厳しい仕打ちをしてしまったような気がする。もっとやんわりと言って含めてやれば良かったのではないかとも考えた。しかしながらこっちだって人間である。同じ土俵に立って同じように腹を立ててたのではだめだということは分かっちゃいるが、なかなかそれがこらえきれない。父にもいい加減観念してもらわなくちゃ困る。
徐々にその日を待てばよいのかもしれない。それにしたって、今軽トラックの鍵を取り返しておかねば「この間は見逃したじゃないか」ということになる。妙なところだけ勘が鋭かったり記憶していたりするので困りものだ。
結局この悶着により、急遽昼休み1時間延長を上司に願い出た。
ついでに昼休みに小作料8袋を届けておいたさ。