「バカって言う人がバカ」

脳梗塞(こうそく)を患って丸2年が経過した父、徐々に、本当に徐々にだが、操る言葉が日本語らしくなってきた。相変わらず発する単語はとんちんかんだが、最初のあいさつや、一音節だけの短い言葉などは結構上手に使えるようになっている。「ヤッター」とか、「コリャ」とか「ヨシ」とか「ダメ」とか。これらに加えて「クソ」「バカ」など、他人を罵倒する低俗な言葉は得意になってきた。さらに「シネ」「シヌ」など、自分自身の不能ぶりが歯がゆいときにかんしゃくを起こしてこういう単語を発する。
上手になるのは歓迎するのだ。しかし母と私が何か話しかけるたびに「いらんことを言うな」「おまえはだまっとれ」と、全く聞く耳を持たなず、あげくにバカ呼ばわり。脳機能自体は回復してきているのだろうが、父の態度は日に日にたちが悪くなる。一緒に食卓を囲むと、何かをしゃべるたびに父は「いらんことを言うな」と制してくる。
ほとんど常に苦虫をかみつぶしたようなしかめっ面で過ごす父。以前はにこやかだったのに。父の口から出てくる言葉とともに、腹が立って仕方がないが、これも良くなる兆候かと言い聞かせてぐっと我慢。