「百姓たちの江戸時代」読了

白土三平カムイ伝」をバイブルにしていた教師から日本史を教わった私は、江戸時代についてかなり偏狭な理解をしていると思っている。悲壮感溢れる語りで我らに教授してくださった先生には感謝もしている。しかし実のところ腑に落ちてはいなかった。カムイ伝を読んでは「現代に生まれてよかった」と心底安堵するのだった。たしか始めて「ああ野麦峠」で諏訪湖周りの縫製工場の悲哀を見たあとにもそう思った。たしかに大変だっただろうけれどもそれだけじゃつらすぎる。
この「百姓たちの江戸時代」には、つらいこと以外の百姓たちの生活が描かれている。私が感じていたことはあながち間違いではなかったこと、恐らく記述するに値せぬような、決してドラマチックとは言い難い日常生活、きっと7割方の時間を占めていたに違いない平凡な、しかし間違いなくさほどつらすぎることはなく過ごしていたに違いない日常生活が描かれている。時には飢饉もあっただろう。乳幼児死亡率なんかは今より格段に高くて日常的に人死にと向かい合っていたことだろう。いわれ無き差別は固定化していただろうし、理不尽な扱いをしたりされたり、人権などは木の葉程度の重さしかなかったのかもしれない。
それでも、そんな生活の中で最大限に楽しく過ごそうとし、楽しく過ごしていたに違いない
歴史は、記述する人間の数ほどに、それぞれに違った側面を見せてくれるものなのだろう。

百姓たちの江戸時代 (ちくまプリマー新書)

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