初めての工場バイト

せっかく親が良かれと思って買い与えてくれたスクーターだったが、何度か無理な遠乗りを繰り返すうちに本格的に調子が悪くなってきた。これからはじまる夏休みに、こんなオンボロスクーターじゃ何にもできないと、一念発起してアルバイトに精を出してみることにした。同じ寮生の紹介だったと思うが、どこからどうやって探したか忘れたけれど、とにかくホンダ技研工業の下請け工場でアルバイトを始めた。大学に入って初の本腰を入れたアルバイトだ。まじめにやらなくては、と最初は思った。
何の部品を作っているのか知らないが、ホンダ関連だからバイクか車か何かであろうと思われるがとにかくオイル臭い工場だ。配属先では、1分に1個の部品を削り出す仕事を命じられた。一日三交代のラインで動いているらしいのだが、一日中ラインが止まることなく流れ続けており、2時間おきに休憩はあるのだが、休憩するたびに削りだしの仕掛品が山積みになっており、全く終わりが見えないのがつらくて仕方がなかった。
工場敷地内には「ゼロ災でいこう」とか「無災害継続○○○○日」とか、とにかく緑と赤の文字で書かれたスローガンがやたらと多かったような気がする。
田舎の農村で育った目には、工場労働者たちの姿がとても新鮮に映りはしたが、その単調な仕事たるや、いくら給料をもらうからといって同じ作業を毎日8時間も続けることはできなかった。
結局この工場バイトは延べ2週間しかしなかった。それでもバイト料は10数万円になったような気がする。
当初の目的は、このバイト料でバイクの免許を取り、さらには250ccのバイクを買うことだったのだが、当然目標額に到達することはおろか、これ以降、自分が人として世の中を渡っていけるかどうかについて、初めて疑問を持つに至った。大学の友人知人たちも案外適当にバイト先とけんかしてやめたりサボったりクビになったりはしていたけれど、まさか我が身が「使い物にならないかもしれない」とは。ほかの工場勤務をしている社員の皆さんはいやいやながらもあんな単調な仕事を一日も休まず続けているのに、私はあまりのつらさに耐えかねて途中でやめてしまったのだ。自分自身にこうした怠惰な、ずるい面があることもバイトを通じて初めて気づかされることになった。