水稲の、穂肥

イネの生体内で、稲穂のもとである幼穂が作られる時期を「幼穂形成期」と呼び、農協で営農指導に携わる人や近所の訳知りおやじたちは「穂肥」と呼ぶ追肥の時期を逃さぬようにと指導してくれる。
勘が悪いうえに決断力に乏しい私のこと、あれよあれよという間に施用の時期を逸してしまいそうである。
例によって、失語症からの回復を目指している(はずの)父が、週2日の自宅静養で我が家にいるわけだが、困ったことにもちろん「静養」とは名ばかり。相変わらずすぐにかんしゃくを起こし、言うことは効かず、無謀にもエンジン付き農作業器機を使おうとする。使いたいのだ。使おうとして段取りが分からなくなり、悲しそうな顔をしてあきらめる。そんな繰り返しを繰り返している。そしてクチを出すとまたかんしゃく。2日間の無限連鎖だ。
さて、穂肥の適期についても、父は父なりに約50年以上繰り返してきたノウハウに基づき、なかなか言葉にならない言葉で我らに伝えてくれようとするのだが、さっぱり要領を得ない。
結局、我ら家族に言いたいことが伝わらないと見るや、自らがおぼつかないなりに勝手にいろんなことをやり出してしまう。
本日午後には所用で外出。明日も恐らく一日我が家の作業はできない。
父がなにやらやらかしてしまいそうな機がしてならぬのだ。
穂肥は、動力散布機に10〜20kgの粒剤肥料を入れ、田んぼの畦を歩きつつ適当に田面に撒くのだが、こいつが結構重い。脳味噌の具合が悪い父、脳梗塞(こうそく)で倒れた父、心臓に不整脈を持っている父には、ちと過酷すぎるのではないか、もしも万が一転びでもしたならば…などと心配の種は尽きない。