その男、世帯主につき

高次脳に機能障害を持つ父は世帯主。事実上は認知症であるため、すべての行為は彼の配偶者である母か、子である私が代理となって行っている。
倒れる以前の父は、68歳という年齢的にも、その持って生まれた社交性に富む性格からしても、結構周囲の人気も良くて、地域社会の中堅どころとしてさまざまな役職を担っていた。
が、こうしたすべての役割は、今現在の父にはムリである。おそらく将来的にもムリであろうが。
というわけで、我が家がある集落や地区の役どころについて、断れるものについては断り、代理人でなんとかしのげるものはしのいでいこうというのが今のわが家の方針となっている。
明日は地域の消防出初め式。自らも消防団員として長く勤め上げてきた父は、消防団を退団後も地域消防団の後援会長として防災に心を砕いていた。実際は年に一度、出初め式のあと、消防団員を囲んで慰労の宴席を設けるだけなのだが。
なにやら、明日の出初め式を控えて血が騒いでいるらしい。夕方以降、訳の分からぬ日本語でまくし立て始めた。
「段取りは付けてある」と報告したが、どうも息子がどのように段取りをしたのか心配でならぬらしい。
「全部用意してある。心配は要らない。交代するか?そのかわり全部あんたがやるんだよ」と詰め寄ったらさすがに『ああ今のワシ*1じゃむりだよそんなにいじめるなよセガレ』みたいな感じであきらめてくれた。
というか、「もうしらん、いっさいしらん、かってにせい、ワシゃしらん、もう何にもしないんだもんね、いーんだいーんだ、ワシなんか死ねばいいんだ」みたいに、はぶてて*2しまうのだ。
最近の父、最近多用しているのは死にまつわる単語。さらに、唯一ジェスチャーで伝えようとしてくれるお気に入りは首つりポーズ。
そんな意思表示をされても私らどうすりゃいいんですか?テロ攻撃で脅しをかけるならず者と一緒じゃありませんか。

*1:ワシ…わが家付近のおじさんたちが好んで使う一人称

*2:はぶて-る…ふて腐れる、腹を立てる、のような感じの方言