聞き分けのない父はそのころ

午後5時半過ぎ、祖母の入院準備のために一旦帰宅。
すると、要介護度1段階の認定を受けている失語症の父の姿が見えない。ついでに、母の愛車も見当たらない。
「まさか父ちゃんが乗って出たんだろうか」
基本的にカギの管理もルーズな母、自動車のキーを付けっぱなしだったらしい。その「まさか」である。
母と二人で青ざめ、慌てて近くの親戚や父がのぞきそうな御近所に電話で捜索をかけたが、それらしい目撃情報が得られない。
父にお灸を据える意味でも、警察に保護してもらったほうが良いのではないかと思い、危うく110番通報をしそうになった矢先、父は優々と安全運転で帰宅。「ほれ、大丈夫だろう。心配いらないってば」みたいな顔で。
幸いにして田舎町でもあり、交通量も少ないため、無事に帰宅してことなきを得たものの、もしもなにかあったらと思うとゾッとする。
勝手に乗って出てしまった父を言葉で攻めたところで、所詮相手は失語症患者。すんなり聞き入れるくらいだったら入院も必要ないしデイサービスにも通わせないし、ましてや車の運転まで取り上げる必要もない。
管理者たるこちらの責任だ。母とともに、しっかりカギの管理をすることを申し合わせるくらいしかない。
医者からは、今の症状が劇的に回復することは期待薄だと言われているし、覚悟もしている。覚悟ができていない父には、いったい何語で言って聞かせれば聞き分けてくれるのだろうか。