祖母、94歳の仕事

高齢で、体の衰えとともに気力も気分も弱気になってしまった祖母。
毎日何度も「もうムリはできん」といいつつ、少しでも天気が良ければ庭で軽作業。
五体満足な我らにとって「軽作業」なのであって、よわい94歳のご老体にとっては大変な重労働である。
庭に出ることは、彼女にとっては日々の健康をはかるバロメーターでもある。
今日の作業は、春先の恒例、茶摘みだったようです。わが家で一年間毎日欠かさずお茶が飲めるのは彼女のおかげです。有り難い。
あまりムリをしてもらっても困るので、(耳が遠いので)近寄って声を掛けた。
昨年末に彼女が植えたイチゴ畑が軒並みカラスの被害に遭うという。このままではせっかく収穫適期となったイチゴが全てカラス(と高次脳に機能障害を持つ父)の餌食となってしまう。祖母の意向に沿って畑に糸を張ってカラス除けを施した。
糸を張り終えたころ、どこで何をしていたか知らんが失語症で認知に障害がある父が寄ってきてなにやら訳の分からぬ言葉*1を連呼しながらカラス除けの糸に引っかかっていた。張り巡らせた糸があまりにも細すぎて見えなかったのだ。危険なので糸にテープを貼って目印にしておいた。
失語症の父よりも数段元気な脳みそと94歳なりのガラスのように繊細な肉体を合わせ持つ祖母は、いろんな作業を行いながら、「いままでワシがやってきたけど、来年のいまごろは(いろんな季節ごとの作業は)できんじゃろう」と言う。
私も「あぁ、そうかもしれない。心の準備はともかく、現実的にわが家の収納を抜本的に改めていつでも葬儀が出せるように準備をしておかねば」と思う。
脳梗塞(こうそく)によって失語症を患い少々高次脳に障害が残ったためちぐはぐな行動が随所に散見されおそらく誰よりも「オレは理解されない不幸を背負っている」とばかりにかんしゃくを起こしてしまう父に対しては、このままの状態が続くのならば「ああ入院しててくれたらいいのに」と思うのだが、こと祖母に関しては切実に長生きしていて欲しい。
彼女が居なくなることは、ほぼ間違いなく間近に迫っているのだろうけれど、本当に辛い。来年も元気に茶摘みをしていてください。

*1:ジャーゴン・ジャルゴン…失語症患者の発する意味不明な言葉