やっかいなのは失語症?

失語症がやっかいなのか、やっかいな父が失語症になったのか、どちらかというと後者のような気がする。
午後11時、なぜか外出作業支度に着替えた父が外に出て行こうとしていた。よくよく(父を)観察し、耳を傾けてみると、どうやら田んぼにイノシシが出没し始めているらしい。
我が家がある中国山脈の山あいの田んぼでは、ここ10数年、とみにイノシシ被害が増大している。どこのお宅でも田んぼの周りをトタン板で囲ったり、なにやらわからぬ柵で囲ったり、電気牧柵で囲ったり、とにかく囲いまくっている。我が家もご多分に漏れず、電気牧柵で囲ってある。ちなみに電気牧柵の作業を行ったのは父である。
我が家付近の田んぼは、8月上旬にはすでに開花・受粉を終え、現在モミにデンプンが充填されてお米らしい形に育つ登熟期(?あってる?)と呼ばれる段階に入っている。乳白とも呼ばれる液体状のデンプン、コメの元が徐々に穂に蓄積されているこの時期、イノシシたちも、最もおいしいこの時期の田んぼで、穂をしごくように吸い付きながら、田んぼの中で気持ちよく転げ回って全身に泥をまとうのだ。
毎日田んぼのチェックだけは欠かさない父。イノシシの形跡を見逃すはずもない。電気牧柵の効果があるならば夜中もふんぞり返って眠っていれば良さそうなものだが、そこは見回りをせねば気が済まないようで、夜中にお着替え、お散歩をしたくなるらしい。
農作業のことだったら私に言ってくれと常々言っているのだが、それを聞き分けられるくらいならもっと前に農作業全般について息子である私に教えてくれているはず。
息子は頼りないと思っているのか、「ワシの目の黒いうちはワシがやる、無理してでもとにかくやる」というきなのか、とにかく無理をしたがる性分。わがままな父は、とにかく自分の気が済むようにならないとかんしゃくをおこす。今夜もそうだった。
やっかいな父は、人の言うことなど聞かず、自分の思うようにしかしない。病院に行ってみようかと声をかければ「ワシが風邪だと思ったんだから風邪なのだ」と突っぱねる。そういう人間なのだ。だから脳梗塞(こうそく)を患うことになるし、失語症に悩むことになったのだ。