わがままな失語症患いの父の所業


わが父は本日”出勤”予定。町内にある訪問介護施設でデイサービスを受ける日。日中、父がわが家にいなくなる日は本当に安心できる。ただし、私が出勤する時間帯に父はまだ眠っていることが多く、そのまま出かけてしまうため、きちんと介護施設のお迎えに間に合っているのかどうかは甚だ心許ない。たまに準備が間に合わずに一緒に送迎をされている方々にご迷惑をかけることもあるというが、まあいたしかたあるまい。
父の在不在にかかわらず、ここ一年ばかりはわが家で昼食をとることが多い。今日もいつものように昼食をとるために帰宅した。父がきちんと”出勤”したかどうかをみかじめ、父が不審な行動を起こした形跡がないかどうかをみかじめるのだ。
本日帰宅してまず驚いたのは、昨日脱粒した黒豆が、敷物の上に広げて干してあったこと。黒豆の収穫についてだれよりも気にしていただけに「これだけはやっておかなくちゃ」と思っての行動だろう。まあそれなりにありがたい。
もうひとつ、父に宛てて自動車運転免許証更新の案内が届いていたこと。正直言って「ついに来たか」と思っている。できることならば「寝た子を起こすな」である。自動車の運転免許のことなど忘れ去っていてほしいのであるが、そういうわけにもいくまい。父は昨年、誕生日の前後に運転免許証の更新を思い出し、どうしても更新したかったらしくてしばらく騒いでいたのだった。
今年はどうだろうか。このはがきが父の目に触れる前に処分した方がよいのか、それとも免許更新会場に連れて行って惨めな思いをさせるのか。できることならばいくら惨めだろうが大声を出してわめこうが、そんなことは一向にかまわないので失語症でわがまま放題の父から運転免許は奪い去るべきだ。一刻も早く。
というわけで、案内はがきは父が後生大事にどこかへしまい込んだようで、すでに私の視界からきっちり消え去っていた。さて父の誕生日まで約1カ月。いつ、どのような形で思い出すのか(それとも思い出さないのか)はまだまだ予断を許さない。